2005年02月10日

「裏ワザ」としての無断録音 [ 倫理 ]

 魚住昭の記事を読むために手に取った月刊現代で目を引いたのは、辰濃哲郎の記事だ。昨年8月に、取材時に無断録音し、その録音MDを別の取材先に流したことで朝日新聞から退社処分になった記者だ。(自分から名乗り出るところが頼もしい。朝日新聞社は昨年の処分時には、名前を公表していなかった)

 辰濃は、MDを別の取材先に流したことについては非を認めながらも、無断録音については調査報道で必要な方法だと主張する。社からの処分理由にも、無断録音は含まれていないという。しかし、朝日新聞社は対外的には「取材内容の録音は相手の了解を得るのが原則であり、取材相手との信頼関係を損なうことがあってはならない」と宣言してしまった。これが間違いだったと指摘する。

 NHKはこれを逆手に取り「仮に録音テープがあるのであれば、御社見解に照らした場合、取材倫理に反する行為にあたると考えますがいかがでしょうか」といやらしく責めている。朝日としては、まさに痛いところを突かれたのだろう。辰濃も、取材テープがあれば公開すべきだと主張する。

 無断録音について辰濃は調査報道に必要だという。そこで「不正追及のためには、配慮しながら、無断録音をすることがあります」という原則を提案する。これには賛成しかねる。

 無断録音の必要性については認める。取材先と会話するなかで、テープなら細かいニュアンスまで拾ってくれる。その場ではわからなかったことが、後から改めて聞くとわかることがある。しかし、これは背景取材のときに限定すべきであって、核心的事実の証言を得るときには、やはりオンレコでやるべきだ。

 松尾NHK前放送総局長の場合は、圧力を受けた当事者である。その当事者の証言がなければ記事は成立しない。現実の取材で「メモを取るな」と言われても、そのまま引き返すわけにはいかない。「じゃあオフレコで背景取材をさせてください」と一歩引き下がる。ここで無断録音はやってもいいと思う。しかし、話しているうちに「圧力を受けた」としゃべったら、最後にもう一度「じゃあオンレコでお願いします」と録音機を突きつけるべきだった。

 オンレコとオフレコの境界線は、どうも新聞記者は甘い。テレビ記者も無断録音するが、核心的事実を報じる場合はハードルが高く、録音・録画がないとニュースとして認められにくい。

 また、「不正追及のためには」という但し書きにも疑問を感じる。不正追及を拡大解釈されたら、だれでも無断録音の対象にされてしまう。今でも「同じような犯罪を防ぐために」という名目で、犯罪被害者たちの写真が「無断掲載」されている。

 やはり「無断録音は取材倫理に反する」と表向きは掲げておくのが妥当だろう。ニューヨークタイムズの規定も、次のようになっている。

Staff members may not record conversations without the prior consent of all parties to the conversations. Even where the law allows recording with only one party aware of it, the practice is a deception. Masthead editors may make rare exceptions to this prohibition in places where recordings made secretly are legal.(編集部員は、参加者全員に事前の了解を得ることなく会話を録音してはならない。例え法律では一方の当事者だけしか知らない中での録音は許されているが、そのような行為は相手を欺くことになる。ただし、編集幹部は法的に問題がない限り、まれな例外はあり得る)
 つまり、無断録音を倫理的に戒めているが、例外は認めるという立場だ。

 表向きは禁止しつつも、無断録音は「裏ワザ」として許容すればどうか。表向き禁止にすれば、記者の気持ちも引き締まり、極々限られた状況でしか無断録音しなくなるだろう。辰濃提言のように表向きも許容してしまうと、ずるずると拡大解釈される危険性が高い。

 「裏ワザ」にしておけば「倫理違反だ!」と単細胞的に叫ぶ編集幹部と、「無闇にやるなよ」「バレないように気をつけろよ」と理解ある幹部が現れ、両者のほどよい緊張の中で無断録音は適正な範囲で運用されると思う。時々、脇の甘い記者が沈没する可能性は残るが、無断録音を全廃することでその利点さえも失うよりは、被害は小さい。

 もし、今回の番組改変報道のように二進も三進も行かなくなったら、記者は腹を切るしかない。「確かに無断録音は倫理違反でしたが、真実はこの録音の通りです」と告白する。その比較較量で真実が重たければ、倫理違反については情状酌量が認められることもあるだろう。

Posted by halberstam at 2005年02月10日 | コメント(1) | Trackback(0)



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■ 無断録音
無断録音をしたら取材に応じてくれる人はいなくなります。
田中県政追撃コラム発行人 (2005-03-06 09:32:26)

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